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税務調査の未来(続き)

戦後のシャープ勧告後の税務調査は、やはり「臨場調査」と云われる形態を中心に課税庁は「システム構築」をしてきたものです。調査官が年間1人当たり、30件程度の調査件数を目標設定し、1社当り、数日間の日数投下して調査を展開するというものです。つまり企業の備え付けの公表帳簿等を税務官が実地に確認,検査して適正な納税申告書が作成されているのかを調査する。国税庁の事務の実施基準及び準則に関する訓令 第4条一ロ(ロ)には、「適正申告の実現に努めるとともに、申告が適正でないと認められる納税者に対しては的確な調査及び指導を実施することにより誤りを確実に是正すること。」と書かれている通りです。国税庁の定員は令2年末で5万5953人となっており、その大半が「税務調査」事務に携わっているものです。現に税務官の正式職名は、国税調査官と「調査」という名称が付されていることからも当然の事です。国税調査官とは別に「国税徴収官→定められた納期限までに納付されない税金の督促や滞納処分を行うとともに、納税に関する指導などを行います。」や「国税査察官→裁判官から許可状を得て、悪質な脱税者に対して捜索・差押等の強制調査を行い、刑事罰を求めるため告発を担当。マルサ」などの職種もありますし、総務課、管理運営部門などいわゆる内勤部署もありますが、何と云っても大半は調査の仕事が中心です。

調査は全納税者に対しては到底無理であり、「申告内容に疑問がある」とか「何らかの理由の基」に調査対象先が選定されるという訳です。勿論、「数多い納税者の中から、選定して調査する」以上は、調査効率が厳しく追及されるという訳です。A署では100件調査して、申告漏れが70%判明し、その追徴税額が1億円であった。しかし隣接するB署では、150件調査して、申告漏れは50%で、追徴税額は5千万であったとすれば、B署の調査効率はA署よりも、一般的に非効率となる訳です。税務調査にはノルマがあるとか、成績重視とか巷間、昔から言われるのは、端的に云って、こういう調査効率が大変重要視される職場であるからです。

ところがこの調査効率が、ここ10年で大変悪化したという事です。(税務調査の歴史で詳解しましたが、具体的に追徴税額の推移から明白となっています。)そして、このコロナ禍の結果、税務署の調査は令和2年、令和3年と、2年間も実質開店休業に追い込まれたのです。ただでさえ調査効率が長期低落傾向が顕著なところに、この非常事態で、今までの「税務調査体制」では、立ち行かないと考えられます。税務調査官が調査しても、大した調査が出来ない。例え課税漏れを発見したとしても、少額の追徴税額であったとかでは、そもそも何のための調査か、調査の必要性自体に大いに疑問が出るというものです。

最近の税務官は、立場のある方(上席とか統括と付く調査官の方でも、税務運営方針(昭和51年国税庁)を知らないという人も多いのが現実です。以下この指針に大変重要な記載がありますので、少し長いですが、引用します。

・調査と指導の一体化「申告納税制度の下における税務調査の目的は、すべての納税者が自主的に適正な申告と納税を行うようにするための担保としての役割を果すことにある。すなわち、適正でないと認められる申告については、充実した調査を行ってその誤りを確実に是正し、誠実な納税者との課税の公平を図らなければならない。更に、調査は、その調査によってその後は調査をしないでも自主的に適正な申告と納税が期待できるような指導的効果を持つものでなければならない。このためには、事実関係を正しく把握し、申告の誤りを是正することに努めるのはもちろんであるが、それにとどまることなく、調査内容を納税者が納得するように説明し、これを契機に納税者が税務知識を深め、更に進んで将来にわたり適正な申告と納税を続けるように指導していくことに努めなければならない。調査が非違事項の摘出に終始し、このような指導の理念を欠く場合には、納税者の税務に対する姿勢を正すことも、また、将来にわたって適正な自主申告を期待することも困難となり、納税者の不適正な申告、税務調査の必要という悪循環に陥る結果となるであろう。」

・直税事務運営の目標と共通の重点施策「限られた稼働量で最も効率的な事務運営を行うため、調査は納税者の質的要素を加味した上、高額な者から優先的に、また、悪質な脱漏所得を有すると認められる者及び好況業種等重点業種に属する者から優先的に行うこととする。このため、調査の件数、増差割合等にとらわれることなく、納税者の実態に応じた調査日数を配分するなど、機動的、弾力的業務管理を行うよう留意する。」「税務調査は、その公益的必要性と納税者の私的利益の保護との衡量において社会通念上相当と認められる範囲内で、納税者の理解と協力を得て行うものであることに照らし、一般の調査においては、事前通知の励行に努め、また、現況調査は必要最小限度にとどめ、反面調査は客観的にみてやむを得ないと認められる場合に限って行うこととする。なお、納税者との接触に当っては、納税者に当局の考え方を的確に伝達し、無用の心理的負担を掛けないようにするため、納税者に送付する文書の形式、文章等をできるだけ平易、親切なものとする。また、納税者に対する来署依頼は、納税者に経済的、心理的な負担を掛けることになるので、みだりに来署を依頼しないよう留意する。

この昭和51年の国税庁税務運営方針は、今読み返しても「色褪せない、適格な記載」であり、税務調査が非効率になって来た時代背景や、納税環境等を考慮すれば、いずれにせよ、税務調査体系を再構築すべき時期であることは間違いない。これが私の言いたい点です。今後どういう税務調査の体系となってくるのかを次回以降で大胆に述べたいと思います。