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マルサのライバルは?

脱税摘発部隊と表現される査察、通称マルサ。ではそのマルサのライバルは?。今回はこのお話です。査察には事件を見つけ立件(捜索令状の交付を受け強制調査出来るまでの準備をする)する「情報」と、事件着手から告発(検察庁に事件を引き継ぐ)まで行う「実施」の両輪で分担していますが、この「情報」では、数人の査察官が「チーム」を組織して仕事をしています。このチームを「班」と呼びますが、班が幾つか集まり部門を形成しています。部門対部門は全くの競争社会です。更に、同じ部門内でも班対班もライバル関係です。つまりマルサのライバルはマルサだという事です。査察事件はこの班単位が競争して脱税端緒を発見し、内偵、立件するのが査察のルールです。また査察に管轄制限はありません。先着手が原則となっているのです。東京国税局管内の納税者に大阪国税局査察部が着手するのも自由な訳です。お役所には「管轄」という「縄張り」があるのが一般ですが、査察官は全国どこの地域の脱税でも摘発出来るのが原則となってまなす。尤も、国税局を統轄している国税庁の査察課が「東京の脱税者だから大阪が立件しても、着手は東京の査察に実施させるのが合理的」と判断すれば現実の事件担当は東京となりますが。管轄外だからとはならない。全国のマルサが自由競争の原理で動いているという事です。マルサのナサケ(情報の情の字より隠語でこう呼んでいる)の最大の特徴は「保秘」ですから、班の内偵案件が何なのかは常に査察部内ですら極秘にされます。これがマルサのナサケのプロ職人根性というものです。

もう一つマルサにライバルがあります。それは国税局資料調査課です。「リョウチョウ」と呼ばれていますがこの組織は税務調査つまり任意調査を行う部隊ですが、最低でも10人以上、大型案件では30人以上で調査着手しますので、納税者には査察調査との区別がつきにくく、時には、調査手法が強すぎると批判されたりする場合もありました。マルサのライバルが何故リョウチョウかですが、マルサが追っかけている内偵案件と、リョウチョウの調査選定が、実は同じであるという事が結構多い訳です。つまり同じ脱税者に対して、国税の異なる組織がアプローチしているという図式になっている訳です。資料調査課の調査着手も秘密が厳守ですから、結局、先に着手したものがという結果になります。

資料調査課の調査はあくまで任意調査ですから、脱税事件として査察部が強制調査に着手するのは当然に自由ですが、問題は一度税務調査が開始されますと、証拠隠滅や隠滅とまで行かないとしても、脱税者側の防御が素早く構築されたりして、査察着手してから告発までのハードルが高くなるという実務上の大きな問題があります。せっかく苦心して立件寸前であっても、リョウチョウに着手され、結局、立件を断念したというケースがあるという事です。

さて、ではリョウチョウのライバルは?ですが、税務署の特別調査班がライバルと言えます。資料調査課は各税務署の納税者の中から、調査選定事案を見つける必要があります。毎年、人事異動の7月初旬が過ぎればリョウチョウは各署への巡回を開始します。そこで、事案選定作業を行うのです。選定された事案は「縛り」が掛かります。つまり、自由に税務署が税務調査出来ないというルールです。逆に言えば、リョウチョウが選定しなかったので、税務署の特別調査班が税務調査して「多額の不正経理」を発見したとします。するとリョウチョウは「しまった。選定漏れしていた」と悔やむ事になります。勿論マルサも署の特別調査班の動向には注視が必要となります。マルサの事件着手の前日に税務署の特別調査に着手されたりすれば、やはり証拠隠滅が開始されてしまうからです。

脱税案件は、税務署、国税局リョウチョウ、そしてマルサが三つ巴になって、狙っているという訳であります。今回は税務組織はこの様に、公務員社会の中では類を見ない、競争原理の下に税務調査行政を行っているという事を知って頂きたいという観点からお話させて頂きました。