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税務調査は何故厳しいのか
数ある「行政調査」の中でも、税務調査のレベルは相当高度で実質的と言われます。国家機関や地方庁の調査には、形式的、上辺だけというのもありますが、税務調査は大したことは無い、形式的だ。とは大半の方は言わないということです。他官庁の悪口になりますから名指しは避けますが、「書類上の辻褄が合っていれば問題視されない」調査とは名ばかりで単に書面審査の域を出ない、こういう調査も沢山あります。しかしこと税務調査に関しては、甘いとか形だけなど言う人は少ないです。今回は、どうして税務調査は厳しいのか、この理由について説明致します。
税務署員が優秀である。税務調査権限が強い。国税組織が優れている。などと解説されますが、的外れではないですが、決定的要因ではありません。公務員組織には余り見慣れない秘密があるからです。最近の話題で、女子ゴルフの藍ちゃんが現役引退表明しました。彼女が何故女子ゴルフで抜群の実績を残したのでしょうか。大きな要因はライバル、つまり良い好敵手の存在です。もう一人女子ゴルフ人気の牽引は横峯さくらさんでした。スポーツの世界では必ず好敵手の存在が不可欠ですね。企業だってそうです。独占企業は必ず衰退します、ライバル企業の存在が必要です。自由主義、資本主義と共産主義の雌雄は、ソビエトの崩壊等から明白、今経済大国の隣国中国は経済体制は共産主義とは無縁です。公務員社会には普通、競争原理が働きません。ですから、お役所仕事と言われるのです。ところが税務の職場、国税の職場は、先人の苦労が実を結び、公務員組織には稀な競争原理が働くシステムが構築され、機能している。これが税務調査の厳しさの原点なのです。
税金取立(税務調査)に競争原理とはと疑問や立腹される方もおられると思います。しかし、公務員であれ企業であれ、人の活動に競争原理が機能しなければ、進歩もないでしょう。税務署に何故競争原理が必要なのかですが、それは、税務調査が全納税者のほんの一部にしか実施出来ないという現実があるからです。税務調査を行う率、実地調査比率=実調率(じっちょうりつ)と呼ばれますが、全納税者の法人なら数パーセントという低い率です。一方で脱税、租税回避過少申告、無申告等の納税違反は残念ながら相当数に及んでいます。何も日本に限らずです。脱税天国の国、地下経済が発達してしまった国、税務調査が崩れると、大変な世の中になります。租税とは国家が民間から強制的に徴収するものであり、調査が甘くなればそれだけ納税義務違反が増加するというのが古今東西世の常です。このため、国税組織は、如何に効率的に税務調査行政を行うのか、これが最重要目標です。税務運営は広報、指導、調査の3つの柱を掲げていますが、何と言っても税務調査が一番の仕事です。税務職員の勤務ローテーション(概ね3年を目途に転勤し、同一署に多年勤務は出来ない)が制度化されていますが、これも同じ納税者に二度調査に行くという弊害を避けるためとも解釈出来ます。税務調査の使命は、第一義的に不正申告の追及、そのために調査選定が最重要となります。数ある納税者の中から、この申告内容は不審が多い、だから調査の必要性があると選定する訳です。多数の選定対象から絞り込んで調査を実施する以上は、調査には当然に事績(結果)が追及されるという訳です。よく言われる「税務調査にノルマがある」「調査に来たら、ただでは帰らない」など巷間囁かれるのは、ある意味では事実とも言えます。
調査効率化が必然的に要求されるため厳しくて当然なのが税務調査です。納税者は寧ろ頼もしく当然と理解すべきだとも言えます。尤も厳しさだけではダメです。現実の調査では、細かい些細な事に目くじらを立てたり、僅かの過少申告に拘ったり或いは文句を付けたり、選定が「間違った先入観」によるものであったのに、未練がましく重箱の隅を調査するのを止めない等、調査の第一線の現場では、昨今税務官の低レベルが目立つのも事実です。
税務署の中でどう競争原理が働いているか、例えば署内でも当然に部門間での効率化達成つまり事績が比較されるでしょうし、近隣の税務署との比較もあります。また国税局単位での比較もされる訳です。調査結果がどうであったのかが常に分析されているということです。別の機会により具体的な国税組織での競争原理についてお話してみたいと存じます。